社会人になってまもなく、オレは友人達と飛行機に乗ることになった。目的地は札幌。
実は、飛行機に乗るのは、高校の修学旅行で九州へ行った時以来だ。
田舎者丸だしのオレ達は、ハイな状態で搭乗窓口に向かう。
ふと思い出した。
『そーいえば、修学旅行の時、小林(仮名)にさぁ・・・』
修学旅行出発3日ぐらい前…。
KEN『やっとパスポートとれたよ!』
小林(仮名)『えーっ、パスポートいるのかよ。先生なにも言ってなかったゾ。』
KEN『あたり前だろ。例えば車を運転する時には免許証いるだろ?
飛行機に乗る時にはパスポートがいるんだよ。』
小林(仮名)『んーっ、そうかぁー。』
翌日…。
小林(仮名):「パスポートなんか、いらねーだろー!!!」
そんなこともあったっけなーと、爆笑しながら飛行機に乗った。
窓際の席でなかったのが残念だったが、ワイワイガヤガヤしながら荷物を棚にドサッとほおり投げた。
すると、背後より暗雲立ち込め妖しい空気が流れてきた。
振りかえると、入り口の方から、黒いサングラスに黒いスーツの二人の男がゆっくり歩いてきたのだ。
そのスジの人と一目で判るいでたちと雰囲気に、一瞬、機内の人達は静まりかえる。
前を歩いている男は子分の政(勝手に命名)、後ろを歩く男は凄まじい殺気とオーラを放つアニキ(勝手に命名)。
政は、オレの目の前の席で立ち止まった。
おー、まいごっど!
政は、『おっ、ココだ。』と言ってアニキに奥の席を譲り、自分は通路側の席に座った。
まさに、い、今、オレの目の前の席にだっ・・・。
オレの頭の中を、人生が走馬灯のように駆け巡った。
機内の人達は、もうヘビににらまれたカエル状態。
しかし、そんな状態の我々を乗せたジャンボ旅客機は、一気に離陸し札幌へと機首を向けた。
あ゛~~~~っ。
氷のように冷えきった機内の空気。誰も一言も話さない。
しばらくして政が動いた!
アニキになにか話して席を立つ。
機内の人達が見守る中、政はズカズカと通路を歩き、スチュワーデスさんに話かけた。
そんな政の動向にも、アニキは無関心を装っている。
スチュワーデスさんは『こちらです。』とトイレを指した。
政は、言われたとおりトイレのドアの取っ手を探り、押すのか引くのか戸惑いながらもトイレのドアを開けた。
その瞬間!
それまでソッポを向いていたアニキの上半身が素早く動いた。
政のいない席を超えて、頭を通路に突き出したのだ。
政のいる方、トイレの方をじっと見ている。
「な、なにが起こるんだっ…。」
しばらくして、何事もなくトイレのドアが開き政が出てくる。『ほ~っ』とため息…。
アニキはサッと元に戻り、先ほどのようにまたソッポを向いた。
再び席に着いた政。
また機内は静寂に包まれる。
1分もしないうちに今度はアニキが立ちあがった!
政に耳打すると政は席を立ち、
アニキが立ち上がって通路に出てきた。
先ほどの政とは違う空気。隠しても隠しきれない鷹のツメ!
1歩、1歩ゆっくり歩き、トイレの前で止まる。
「こ、今度こそ、今度こそなにかが起きるっ!」
アニキは、静かに取っ手に手を添えドアを開けた。
「オレは飛行機なんて乗りなれているのさ。だからトイレの場所くらいわかってるぜ。」
と、緊張にふるえるアニキの背中が語る。
あっ、あ~、アニキも初めてだったのねぇ、飛行機…。
PS 本編は現実にあったことでまったくもって脚色なし。
あえて言うなら…、(本名)→(仮名)にしたぐらいかなぁ。 これ分かる?by KEN