「だいじょ~ぶでぇ~す~。」
居酒屋の店中で大の字になっている大男。バイク屋の忘年会ではいつもこの彼がまっさきに酔いつぶれた。
サービス精神が旺盛なのか、単なるハシャギ過ぎなのか、いつものことである。
「しょうがねぇなぁ。」
JUNは、店の軽トラを出し自宅まで彼を送りとどけた・・・・・。
彼は、郵便局に勤めていた。亡くなった母親の薦めもあった。
そんな彼が学生のころから、JUNの勤めていたバイク店に現れていた。
「オイル交換お願いしま~す。」「なんかブレーキおかしいんですけど?」
いろんなメンテナンスやトラブルを丁寧に教えてくれるJUNを、兄貴のような存在に感じはじめていた。
限定解除をした。大事にしていた「インパルス」だったが、次の愛車はもう決まっていた。
ZZ-R1100・・・そうJUNと同じバイクだ。
毎月のツーリングには必ず参加していた。
先頭を走るJUNの背中を追うのだが、その背中はあっという間に見えなくなっていた。
その背中に憧れていた・・・・。
2001年 2月15日
JUNは、念願のバイクSHOPをOPENさせることになった。
当初のスタッフは、JUN、KAE、そしてコーギー犬ヤックル。
「ウチでちょっと働いてみないか」JUNからの思いもかけない言葉だった。
彼はドキドキしていた。これは夢なのか・・・こんなオレを本当に雇ってくれるのか?JUNさんのSHOPに・・・。
JUNは話をつづけた。
「フルタイムで雇ってやれないのが、申し訳ないけど、週一でさぁ。」
「・・・・・。」彼の返事はない。
「ダメかなぁ。」JUNが聞いた。
彼は、我にかえり言葉を発した。
「ゼンゼンOKですよ~。よろしくお願いしま~す。」
いろいろ仕事を覚えていった。車検場にも行けるようになった。
なによりJUNのそばで、自分の将来の夢を育てていけるのがうれしかった。いつかオレもバイクショップを・・・と。
でも、こんな失敗もあった。
それは、JUNの新しい愛車を車検場に一人で持ち込んだ時のことだった。
ちょっと心配ではあったが、忙しいJUNは彼に任せてSHOPで仕事をしていた。
「スイマセ~ン。」帰ってきた時の彼の第一声だった。大きな体が小さく見えた。
車をどっかでこすったのかな?とJUNは思ったが、なんと愛車を立ちゴケしてしまったとのことだった。
「ナロォ~。」と怒り爆発寸前だったが、まぁやってしまったのはしかたがないことだ・・・と、JUN。
愛車のキズもたいしたことがなかったので、そのままだ。
JUNとKAEの間に娘を授かった。KIEと名をつけた。
SHOPのスタッフは、4人と1匹になった。
そんなある日、JUNは彼から話しがあると告げられた。
彼の父から、借金の保証人になれと言われたという事だった。
「父の保証人になることにしました。」彼の顔は、とっても悔しそうだった。
それは、大好きなこのSHOPをやめ、より給料の良い所への転職を意味していたからだ。
「そうか・・・。」JUNは、それ以上言葉にならなかった。
「今月末で辞めさせてもらいます、スイマセン。」彼の精一杯の言葉だ。
「じゃあ、失礼します。」彼は、メットを手にして帰ろうとした。
「また、来週たのむなっ!」JUNは、席を立って彼の背中に声をかけた。
彼は振りかえり、またいつもの笑顔で答えた。
「ハイッ!」
彼の後姿を見送るJUNには、走り去るバイクの排気音が悲しく聞こえた。
天を仰ぐJUN。
「JUNさん・・・・」KAEが、その肩に手をかけるとJUNの肩は、震えていた。
「オレに力があればフルタイムで雇ってやれるのに・・・」
二人の目からは大粒の涙が、とめどなく流れた・・・。
そしてその月末、彼はバイクSHOPを辞めた。
辞めてからの彼は、勤めていた時以上に、JUNとKAEのSHOPに現れた。
影では、新しく開設されたHPの作動確認をちゅりのもとでしていた。
二人の力になりたくて、心配かけまいとして・・・・。
新しい就職先、新しい彼女、彼に新風が吹きはじめていると、まわりのみんなが思っていた。
いったい誰が予想していただろう。
こんな事になるなんて・・・。
2003年 6月20日
日は落ちあたりは真暗だった。バイクにキーをさし暖気する。
ヘルメットを被ろうとした時、携帯が鳴った。
「おひさしぶりです。」
郵便配達員の時の後輩の中村だった。
「おーどうしたー。」
「どーしたじゃないですよ、明日の約束忘れてないですよね。」
「あー、オレの壮行会をしてくれるんだって。」
長く勤めていた郵便局の仲間達が、新しい職場についた彼のために壮行会をしてくれるらしい。
「田山や春山さんも来るって言ってましたよ。」
「えーっ、配達は大丈夫かぁ?」
「みんな、河合さんには世話になってるんで。だから、明日は絶対来て下さいヨー。」
「あぁ、必ず行くよ。」
携帯の時計は、約束の時間に迫っていた。「おっと、ヤバいヤバい。」
ヘルメットを被り、彼は夜の闇にバイクを走らせて行った。
ヴォォォォォォーーーー。
そして、JUNの携帯が鳴った・・・・・・・・。
2004年 夏 今年もまた暑い季節がやってきた。
セミの鳴き声が聞こえる、花火が上がっている、太鼓の音、鐘の音・・・・。
いろんなところで人々の歓声が聞こえる。
しかし、もう彼にはあの夏は訪れない・・・。
一周忌を過ぎたころ、思い立って書きました。あくまで、フィクションとして・・・