山への思い***

バイクに乗るようになった。
いろいろなバイクに乗ったが、現在乗っているヤツは、舗装路とダート両方走れるツワモノらしい。
『…らしい』というのは、私がいわゆる林道を走りにいかないから『分からない』という意味である。
昔々、私は北海道の片田舎の高校で山岳部に籍をおいていた。
進んだ高校が、そのころの田舎にしては結構有名な進学校であったにもかかわらず、勉強もせず山にばかり登って親を泣かせていた。
もし今でも古臭い山小屋風の部室が残っていれば、私のきたない名札が壁に掛かっていることだろう。
さて、山の話。
北海道の山々は標高こそ2000メートル級だが、緯度が高いために本州の3000メートル級の山に匹敵するほどのレベルなのだそうだ。(なんのレベルかは知らない…難易度とかいうヤツか?)
加えて、広い北海道の事、山の裾野までのアプローチがやたらと長い。
つまり、電車もバスもないから歩くしかない訳で、アプローチだけで一日掛かってしまうといっても大げさではない話だった。
よって、一年を通してもそうそうたくさんの山に登れるはずもなく、夏休みに1週間ほど集中して山に入る他は、学校側が公式に認めたシーズン中の(当時、高校生は冬山と岩登りは禁じられていた…なぜかは知らない。)。
それも連休を利用しての山行だけだったから、現在の高校ワンゲル部の活動に比べれば、回数にしたら笑ってしまうほど少ないものだったろう。
そんな私でも、『山屋』と呼ばれてイイ気になっていたのだから、今考えると恥ずかしい事このうえない。
が、ま、それはそれとして…。
伝統ある高校の伝統ある山岳部だったからか、先輩達の中から、その後名前の知られた海外の山に遠征するほどの人も現れたくらいだから、ハイレベルな活動もきっとあったのだろうなー。
私はといえば、その季節季節にピッタリだと思われる山を選び、学校側や部員の保護者からクレームが出ないような山行企画にしあげ、そして、そしてただ登るだけ。
まさに、『そこに山があるからさ』と、何も考えずただ目の前の山に登っていたに過ぎなかった。
そんなある年、先輩が顔色を変えて部室に飛びこんできた。
『大雪山横断道路が計画されているらしいぞー』
無知な私には、なにがそんなに『おおごと』なのかさっぱり分からなかった。
しかし、口から泡を飛ばして先輩達が語るには、一本の横断道、それがたとえ林道であったとしても、その道が大雪の野生動物の生態系に与える悪影響ははかりしれないものがある…、とかいうことだった。
その主な原因は排気ガス…。
先輩達はすぐさま、『大雪横断道反対運動』を展開しはじめた。
あっという間に、道内の高校の山岳部や地区の山岳会と連絡をとり、かなりの数の署名を集めたのだ。
その後のことは残念ながらまったく記憶にない。
ただ、ツーリングマップを広げても、当時横断道路が計画されていた場所に道のしるしがないので、道庁の予算の関係か先輩達の運動のためかは定かではないとしても、とにかくその道は開発されなかったわけだ。
1993年夏、私は無謀にも、2週間かけて北海道帰省ソロツーリングを決行した。
各地で友人と会い、また、山岳部の時に山行の帰りに寄った山奥の温泉につかり、ちょうど計画の真ん中あたりのその日は、知床横断道路を通過する予定になっていた。
ウトロを出て、横断道の分水嶺にある駐車場に入ったとたん、突然胸が苦しくなるような感じに襲われた。
なにがおこったかはすぐには分からなかった。ただ、知床の象徴である羅臼岳が泣いている
その数年前に開通したという知床横断道路は、知床半島の町々の経済に素晴らしい恩恵を与えたそうだ。
土地の人は開通をずっと首を長くして待ちわびていたのだから、きっと喜ばしい事だったに違いない。
でも、あの日以来私には、あの日の泣いている羅臼岳しか思い浮かばない。
分水嶺は分水嶺ではなく展望駐車場になり、『羅臼岳頂上まで○○分』という看板が建てられてしまった。
ハイキング姿で、あの羅臼岳に登るハイカーが、ぞくぞくと車でやってくる。ゴミ箱にあふれかえったカラの弁当箱とペットボトル…。
斜里岳・遠音別岳から知床連山へと続く原生林が里山に変る日もそう遠い日ではないだろう。
広大な北海道にはまだかなりの数の熊が生息している。そしてその3分の1が、知床半島に集中してると聞いていた。
熊たちは、横断道で分断された原生林をどんな風に見つめているのだろう。餌を求めての移動に支障はないのだろうか。
私の中の羅臼は、近寄りがたいほどの美しさと厳しさを持ち、半島の入り口に、ただ猛々しくたたずんでいたはずだった。
いったい、あの羅臼はどこに行ってしまったのだろう。
そんな訳で、私は好んでは林道に足を向けない。
『どうして林道行かないのー』と、ある意味軽い軽蔑を含んで聞いてくるオフロードライダーがいる。
そんな時私は、ただ笑ってこう言うことにしている。
『人間の足の跡しかついていない道にタイヤの跡をつけたくないの~。自分の足なら、後に排気ガスが残らんでしょ~』と…。
KENはこの文章を読んで、きっとこう言うだろう。
『そんなこと考えてるんなら、山でタバコをすうなぁ~!!』
そうだよねー。タバコの話2へ